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2023.6.2
2023.5.30
福祉的就労は一般就労と何が違う?働く前に知っておきたい基礎知識
福祉的就労とは、障害があり、一般企業で働くことが難しい人が、就労支援を受けながら働ける福祉サービスです。
働ける場所は、
- 就労継続支援A型事業所…雇用契約を結び、賃金を受け取ることができる
- 就労継続支援B型事業所…雇用契約は結ばずに働き、工賃を受け取れる
- 地域活動支援センターⅢ型…軽作業などの作業を行う
などがあります。
就労継続支援事業所では、働くだけでなく知識や能力の向上に必要な訓練も受けられます。
この記事では、福祉的就労の定義から、現状の課題までをわかりやすく解説します。
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目次
福祉的就労とは?
「福祉的就労」という言葉には明確な定義はありませんが、一般的には障害により就労が難しい人が、福祉政策のもとで就労の場の提供を受けて働くことを指します。
福祉的就労ができる主な施設としてまず挙げられるのが
- 就労継続支援A型事業所
- 就労継続支援B型事業所
です。
どちらも障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスで、一般企業への就労が難しい人を対象にしています。
▼就労継続支援A型・B型事業所の特徴
就労継続支援A型事業所 | 就労継続支援B型事業所 | |
---|---|---|
雇用契約 | あり | なし |
賃金 | 給与が支払われる | 工賃が支払われる |
そのほか、地域活動センター(Ⅲ型)、授産施設といった施設もあります。
地域活動センター(Ⅲ型)
地域活動センターは、主に市区町村が主体となって、地域に暮らす障害のある人の社会参加を支援する通所施設です。
中でも地域活動センター(Ⅲ型)は、もともとは小規模作業所や共同作業所などと呼ばれていたところで、機能訓練や社会適応訓練を行います。
軽作業などの仕事をして工賃を得ることもできます。
授産施設
授産施設は、障害があり雇用されるのが難しい人に必要な訓練を行い、かつ職業を与える施設です。
障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)の施行によって、現在、授産施設の多くは就労移行支援事業所や就労継続支援事業所(A型、B型)へと移行しています。
福祉的就労と一般就労の違いは?
福祉的就労と一般就労の最も大きな違いは、働く人の立場です。
福祉的就労が「障害のある人が福祉サービスを受けながら働く」のに対して、一般就労は「企業等と雇用契約を結んで労働者として働く」という就業形態を指します。
▼福祉的就労と一般就労の違い
福祉的就労 | 一般就労 | |
---|---|---|
働く人の立場 | 利用者・労働者 | 労働者 |
雇用契約 | あり:就労継続支援A型 なし:就労継続支援B型、地域活動支援センター、授産施設 |
あり |
社会保険・雇用保険 | 加入義務あり:就労継続支援A型 加入義務なし:就労継続支援B型、地域活動支援センター、授産施設※ |
加入義務あり |
働き方 | 利用者の希望が優先される | 雇用契約に基づく |
賃金 | 工賃または給与が支払われる | 給与が支払われる |
※授産施設では、作業が訓練等を目的としている場合、作業員は雇用された労働者ではないので、雇用保険の被保険者には該当しません。
ただし、訓練内の計画が策定されていない小規模事業所等では、作業実態によっては、例外的に作業員が労働者とみなされる場合があります。
それでは、それぞれもう少し詳しく見ていきましょう。
一般就労は企業と雇用契約を結んで働く
福祉的就労に対してよく使われるのが、一般就労という表現です。
一般就労では、雇用契約に基づいて労働者として働きます。
決まった時間に仕事場に行き、定められた仕事をこなさなくてはいけません。
なお、障害者雇用枠で採用された場合も、一般就労と見なされます。
障害者雇用促進法に基づき、一般企業は労働者の2.3%に相当する障害者の雇用が義務付けられています。
そのため、企業によっては障害のある方の雇用促進のために「特例子会社」を設立している場合もあるでしょう。
特例子会社は、障害のある方でも働きやすい職場環境や専任スタッフの配置といった「特別の配慮」がなされた子会社です。
福祉的就労は支援を受けながら働く
福祉的就労は
- 職業訓練・就労支援という福祉サービスの利用者
- 労働者の立場
という2つの立場を持つ働き方です。
労働者でありながら、福祉サービスの利用者として支援も受けられます。
体調などに合わせて、働く日時や作業量を調整してもらえるなど、融通が利きやすいというメリットがあります。
福祉的就労の賃金はどれくらい?
福祉的就労の代表的な施設の就労継続支援事業を例にとると、2021(令和3)年度のA型事業所の平均賃金は月81,645円、B型事業所の平均工賃は月16,507円です。
B型事業所の平均工賃は、A型事業所の平均賃金よりもかなり低くなっています。
「令和3年度工賃(賃金)の実績について」(厚生労働省)
A型は給与、B型は工賃を受け取れる
雇用契約を結ぶA型事業所では給与、雇用契約を結ばないB型事業所では工賃を受け取れます。
工賃とは、事業所が得た工賃総額から必要経費を引いた額を分配した金額のこと。
雇用契約を結ばないB型事業所では、労働基準法における最低賃金は適用されず、生産活動の対価である「工賃」が利用者に支払われます。
なお、工賃の額は事業所によって大きな差があるのが現状です。
東京都内にある就労継続支援B型事業所(848事業所)の平均工賃の分布状況を見ると、66.0%(560事業所)が都内平均工賃の16,154円を下回っています。
一方、平均工賃が30,000円以上の事業所も9.8%(83事業所)あり、事業所によって1ヶ月あたりの工賃に最大2万円以上の開きがあることもわかります。
- 10,000円未満 30.0%(254事業所)
- 10,000円以上15,000円未満 31.3%(266事業所)
- 15,000円以上30,000円未満 28.9%(245事業所)
- 30,000円以上 9.8%(83事業所)
対象:東京都内の就労継続支援B型事業所848ヶ所
平均工賃:16,154円
参考:「東京都工賃向上計画(令和3年度〜令和5年度)」(東京都)
>>就労継続支援B型の工賃について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
国や都道府県が「工賃向上計画」の策定・推進を支援
国や都道府県は、主にB型事業所の「工賃向上計画」の策定・推進を支援する取組みを行っています。
その一例が、東京都が行っている事業者ごとの工賃実績の公表です。
これは、利用者が事業者を選ぶ際に、工賃の実績が目安になるという考えから行われているもの。
また、事業所の経営意識を高め、生産性の向上を目指すよう、工賃アップを実現するためのセミナーや生産設備費用の補助といった取組みも行っています。
参考:「東京都工賃向上計画」(東京都)
福祉的就労の作業内容や働き方は?
福祉的就労での仕事は、パソコンを使うもの、身体を動かす軽作業、お菓子やパンの製造などさまざまです。
働き方もいろいろあり、雇用契約に従って決められた日時に働く場合や、利用者の体調などに合わせて柔軟に対応してもらえる場合があります。
福祉的就労の作業内容
就労継続支援A型・B型事業所で行う作業には、次のようなものがあります。
- パソコンを使った業務
- ツイッターやブログなどSNSへの投稿や、パソコンでのデータ入力、動画の作成
- ダイレクトメールの仕分けや配達
- ダイレクトメールを住所ごとに仕分けし、配達する
- パン・洋菓子などの製造スタッフ
- パンやお菓子の製造、包装、販売など
- 清掃作業
- 施設の床掃除やワックス塗りなど
- 軽作業
- 箱折り、宛名貼り、検品作業など
- オリジナルグッズの製造・販売
- アロマグッズ、石鹸、雑貨などのオリジナルグッズの製造や販売
仕事の内容によって、1人で行うものや、チームを組んで行うものがあります。
また、事業所以外の場所に出かけて行う場合もあるでしょう。
福祉的就労のスケジュール例
雇用契約を結ぶ就労継続支援A型事業所では、勤務時間を1日4~8時間など基準を設けている場合があります。
就労継続支援B型事業所では、利用者が無理なく就労できることを念頭に、勤務時間を1日2~4時間と短時間に設定している場合もあります。
具体的な作業時間や作業量は個別支援計画で決定されますが、利用者の希望が優先されますので、大きな心配はいりません。
▼就労継続支援A型事業所のスケジュール例
時間 | スケジュール |
---|---|
9:00 | 朝礼 |
9:10 | 作業開始 |
12:00 | 昼食・休憩 |
13:00 | 作業開始 |
15:00 | 休憩 |
15:15 | 作業再開 |
17:00 | 終了 |
▼就労継続支援B型事業所のスケジュール例
時間 | スケジュール |
---|---|
9:50 | 朝礼 |
10:00 | 作業開始 |
12:00 | 昼食・休憩 |
13:00 | 作業開始 |
15:00 | 終礼 |
福祉的就労の現状の課題
福祉的就労の環境には、さまざまな課題があります。
例えば、国は以下のような課題に対する施策を検討しています。
1.利用者を適切なサービスにつなげられていない
特別支援学校の生徒が、卒業後すぐに就労系障害福祉サービスの利用を希望する際などには、在学中に就労移行支援事業所で就労アセスメントを受ける必要があります。
これは、就労移行支援事業所が生活面のほか就労面に関する情報も把握することで、その人の特性や能力を生かせる就労先を選択できるようにするためのものです。
しかし、その他のケースでは就労能力や一般就労の可能性を本人や支援者が十分に把握できておらず、適切なサービスにつなげられていない可能性もあります。
そこで国は、利用者本人の特性を踏まえた就労支援が受けやすくなるように、就労アセスメントの手法を活用した「就労選択支援」の創設を目指しています。
これは、就労継続支援などの福祉サービスを受ける前に、本人と協同してアセスメント結果を作成するもの。
就労能力や適性の評価だけでなく、本人の強み、課題なども踏まえて、より適切な就労先や働き方を検討、選択することが可能となります。
2.就労継続支援の利用開始後に別のサービスを検討する機会が少ない
現状は、就労継続支援を利用し始めた後に本人の能力や就労ニーズに変化が出ても、他のサービスを検討する機会が限られています。
そこで、前述の「就労選択支援」サービスを希望に応じて利用できるようにすることが検討されています。
「就労選択支援」サービスを受けられるようになれば、就労継続支援B型の利用後も能力や就労ニーズの変化に応じてA型や一般就労などを選択できるようになります。
そのほか、就労継続支援については次のような課題もあります。
就労継続支援A型の課題
雇用契約を結び、働きながら一般就労に向けた訓練などを実施するサービスですが、現状では利用者に最低賃金を支払うという安定的な事業経営ができず、倒産に至るケースも見られます。
また、制度ができた当初と比べて、特例子会社のように障害者雇用の環境が大きく進展していることから、A型事業所の役割を再考すべきではないかという議論もなされています。
就労継続支援B型の課題
B型事業所では、工賃水準が低く障害年金と合わせても地域で自立した生活を送るのが難しい点が指摘されています。
また、労働関係の法令が適用されないことについて、一部適用を認める、もしくは同様の規制を導入できないかという指摘もあります。
福祉的就労に関する相談先は?
福祉的就労について相談がある場合は、下記の窓口に問い合わせてみましょう。
1.自治体の窓口
市区町村役場内に、地域福祉課、障害福祉課といった名称の窓口があります。
2.利用したい事業所
利用したい事業所が決まっている場合は、直接問い合わせてみましょう。
施設や作業を知りたい場合、見学させてもらえることもあります。
地域の事業所を探す際は、独立行政法人福祉医療機構が運営するウェブサイト「WAM NET」が便利です。
>>障害福祉サービス等情報検索(独立行政法人福祉医療機構)
そのほか、自治体の公式サイトに就労継続支援事業所一覧が掲載されている場合もあるので確認してみましょう。
3.相談支援事業所
障害のある人が福祉サービスを利用する際に無料で相談に乗ってもらえます。
相談支援事業所の連絡先は、自治体の公式サイトなどで調べることができます。
障害者の就労を支援したい方へ
福祉的就労が可能な事業所の中でも、事業所数やのべ利用者数が最も多いのが、就労継続支援B型です。
2021(令和3)年4月のデータによると、就労継続支援B型は
- 事業所数:14,060事業所
- のべ利用者数:290,559人
に達しています。
出典:「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて(議論の整理(案))」(厚生労働省)
就労継続支援B型は経営の安定性が高い一方、事業所数の増加によって、利用者の確保や取引先・販売ルートの確保に苦戦する事業所も出始めています。
そのため、就労継続支援B型事業を開業する場合は、しっかりとした経営戦略が必要となります。
ミライクスの「就労継続支援B型実践講座」では、約6ヶ月間の実践的な研修を通して、開業後の経営を見据えた開業準備を可能にします。
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参考文献・URL
- 「一般就労と福祉的就労」(発達障害ナビポータル)
- 「授産施設」(独立行政法人福祉医療機構)
- 「就労継続支援事業利用者の労働者性に関する留意事項について」(各都道府県障害保健福祉主管部(局)長あて厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長通知)
- 「令和3年度工賃(賃金)の実績について」(厚生労働省)
- 「障害者就労に係る最近の動向について」(厚生労働省)
- 「東京都工賃向上計画(令和3年度〜令和5年度)」(東京都)
- 「東京都工賃向上計画」(東京都)
- 「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて(議論の整理(案))」(厚生労働省)
- 「障害者総合支援法等の改正について」(厚生労働省)
-
執筆者
ミライクス運営事務局