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2023.6.10
2023.5.29
就労継続支援B型の平均工賃は?工賃の決め方と高い工賃をもらう方法
就労継続支援B型の利用者が生産活動で得た報酬は、賃金ではなく「工賃」として支払われます。
厚生労働省の調査では、令和3年度の平均月額工賃は16,507円(※)。
時間給にすると233円と、最低賃金(930円/全国加重平均額)よりもかなり低いのが現状です。
仕事の量や時間を増して工賃アップを目指すという方法もありますが、支援が必要な利用者に見合った仕事量には限りがあります。
就労継続支援B型の工賃はなぜ低いのでしょうか。そして高い工賃を得る方法はないのでしょうか。
ここでは、主に就労継続支援B型を利用されている方・利用を検討されている方に向け、就労継続支援B型の工賃についてさまざまな角度から解説します。
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目次
就労継続支援B型の「工賃」とは?
工賃とは、就労継続支援B型などで生産活動を行った際に、利用者が事業者から受け取る報酬のことです。
厚生労働省では、就労継続支援A型・B型の工賃(賃金)の範囲について
工賃、賃金、給与、手当、賞与その他名称を問わず、事業者が利用者に支払うすべてのもの。
としています。
就労継続支援B型は、事業者と利用者が雇用契約を結ばないため、賃金(給与)でなはく、工賃という形で報酬が支払われます。
就労継続支援B型の工賃の決め方
就労継続支援B型では、生産活動により事業者が得た収入(工賃総額)から、生産活動に必要な経費(支出)を引いた額を、事業者が作る「工賃規定」に基づいて利用者に分配する仕組みです。
工賃規定とは、工賃の支払方法や支給日、作業時間、工賃の財源などをまとめたものです。
工賃の支払方法には
- 月給制(基本給+上乗せ給)
- 日給制
- 時給制
があり、事業所によっては、月給制や日給制と時間給を組み合わせることもあります。
事業所外で作業する場合などの特別手当や、賞与が支給されることもあります。
就労継続支援B型の工賃のルール
就労継続支援B型事業所は、利用者及び都道府県知事に対して、毎年以下の内容を通知しなくてはいけません。
- 工賃目標…年度ごとの工賃の目標水準
- 工賃実績…前年度に利用者に支払った工賃の平均額
就労継続支援B型の事業者指定の要件として、平均工賃が工賃控除程度の水準(月額3,000円程度)を上回ることが求められています(「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」第201条第2項)。
そのため、月額3000円が「最低工賃」と言われますが、これは利用者全体の平均工賃が3000円を上回ればよいことを指しています。
たとえば、1日あたりの工賃を600円とした場合のある月の工賃を
- Aさん 600円/1日×20日間=12000円
- Bさん 600円/1日×10日間=6000円
- Cさん 600円/1日×3日間=1800円
とします。
この場合、
(12000円+6000円+1800円)÷3名=6600円
となり、この事業所の月額の平均工賃は3000円を超えていることになります。
就労継続支援B型の工賃の平均額は?
2021年(令和3)年度の就労継続支援B型の工賃の平均月額は16,507円、時間給にすると233円でした。
工賃は増加傾向にあるが格差も大きい
2008(平成20)年の平均工賃月額は12,587円(※1)でしたが、平均工賃月額は上昇傾向にあり、2021(令和3)年度には16,507円に達しました。
2020(令和2)年度は減少し15,776円となりましたが、イベントの中止や就労時間の削減、企業が発注を減らすなど、新型コロナウイルス感染症の影響によるものと考えられています。
なお、工賃の月額平均は事業所ごとに格差が大きいのが実情です。
2018(平成30)年度のデータでは、利用者1人あたりの平均工賃は16,118円でしたが、上位25%の事業所の平均工賃(28,377円)と下位25%の事業所の平均工賃(6,328円)には約4.5倍の差がありました。
※1 就労継続支援B型事業所、授産施設・小規模通所授産施設における平均工賃
※2 出典:就労継続支援に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)
工賃収入のみの人は年103万円まで確定申告は不要
就労継続支援B型で得た工賃は所得税の対象となり、額によっては確定申告の対象となる場合もあります。
確定申告が必要になるかどうかは、工賃やその他の所得の合計額で変わりますが、ここではわかりやすく「所得が工賃のみ」という場合を例にします。
結論から言うと、その年の工賃のみの総収入金額が103万円以下なら確定申告は不要です。
就労継続支援B型の利用者は、所得税を申告する際に「家内労働者等の必要経費の特例」となり、必要経費が55万円まで認められます。
1年間の工賃が103万円だった場合、課税の対象となるのは必要経費55万を除いた48万円です。
さらに合計所得金額が2400万円以下の人は、48万円を基礎控除として差し引くことができます。
つまり、課税対象の48万円から基礎控除の48万円を差し引くと課税対象額は0円になり、所得税の確定申告が不要になるのです。
サービス利用料により工賃がマイナスになる可能性は低い
就労継続支援B型に通う場合は、利用料金が発生します。
その金額は施設によって違いがありますが、国や自治体が9割を負担し、残り1割を利用者が負担します。
そのため「工賃を受け取っても、利用料金を負担したらマイナスになるのでは?」と心配な人もいるかもしれませんが、利用料によって工賃がマイナスになることはほとんどありません。
>障害福祉サービスの利用料には上限額が定められている
障害福祉サービスの利用料の負担月額は、世帯の収入状況によって上限が定められており、生活保護受給世帯や低所得世帯は無料となります。
▼障害福祉サービスの負担上限月額
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯(注1) | 0円 |
一般1 | 市町村民税非課税世帯(所得割16万円(注2)未満) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く |
9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
(注1)3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります。
(注2)収入が概ね600万円以下の世帯が対象になります。
18歳以上の障害者は、障害のある本人と配偶者が世帯の範囲となり、それぞれの収入から算出される住民税で利用料が決まります。
▼世帯の範囲
種別 | 世帯の範囲 |
---|---|
18歳以上の障害者(施設に入所する18、19歳を除く) | 障害のある方とその配偶者 |
障害児(施設に入所する18,19歳を含む) | 保護者の属する住民基本台帳での世帯 |
障害福祉サービス利用者の9割が負担額0円で利用
令和4年10月の障害福祉サービス利用状況を見ると、92.7%の利用者が生活保護・低所得者の区分に該当し、負担額0円で利用していることがわかります(※)。
「一般1」に該当する人も、利用料によって工賃がマイナスになるケースは少ないと考えられます。
1日の利用料(1割負担分)を700円とすると、
- 13日間通った場合は、13×700円で9,100円
- 14日間通った場合は、14×700円で9,800円
となり、14日間以上通う場合も利用額負担は上限の9,300円です。
平均程度の工賃を受け取れていれば、利用料を支払ってもマイナスにはなりません。
一方、利用料の上限が37,200円の「一般2」に該当する場合は、負担額が工賃を上回る可能性もありますが、一般2に該当する人の割合はわずか1.6%です。
したがって、利用料によって工賃がマイナスになると過度に心配する必要はないでしょう。
※出典:障害福祉サービス、障害児給付費等の利用状況について(厚生労働省)
就労継続支援B型の工賃はなぜ安い?
令和2年度の就労継続支援B型の平均工賃月額は時間額にすると233円で、同じ年度の最低賃金(全国加重平均額)930円に比べるとだいぶ低くなっています。
その主な理由として次の3つが考えられます。
- 労働関連法令が適用されない
- 支援の必要性が高い人も多い
- 収益の低い下請け作業が多い
工賃向上を支援するために、国や自治体はさまざまな取組みを進めていますが、実際には利用者のニーズに合わせた支援と工賃向上の2つを両立させるのは難しいようです。
ここでは、B型の工賃が安い理由を解説します。
1. 労働関連法令が適用されない
就労継続支援B型は、事業者と利用者が雇用契約を結びません。
就労継続支援B型の利用者は「労働者」に該当しないため、労働基準法や最低賃金法といった労働関係の法令が適用されないのです。
そのた最低賃金が保障されず、下回るケースも多く見られます。
2. 支援の必要性が高い人も多い
就労継続支援B型は、一般企業に雇用されて働くのが困難な人に
- 生産活動の機会
- 就労に必要な知識・能力の向上のために必要な訓練
- その他の必要な支援
を提供する障害福祉サービスです。
利用者の障害の程度はさまざまですが、人によっては作業面のフォローだけでなく生活リズムや人間関係の面でも支援が必要な場合があります。
そのため、工賃を上げるために作業の難易度を上げたり作業量を増やしたりすることは利用者の負担につながり、ニーズに合わないと考えている事業所も多い>ようです。
3. 収益の低い下請け作業が多い
外部の業者から作業を受託している事業所では、下請けの軽作業を複数受託しているケースが多く見られます。
下請け作業はもともと単価が低いため、交渉したとしても大幅な値上げは難しいといえるでしょう。
そのため、一部の事業所では下請けをやめて、オリジナル製品の製作や販売など、収益の高い作業に取り組む動きも見られます。
また、厚生労働省では都道府県や市区町村が物品購入や清掃、印刷などの業務を就労継続支援B型に発注することを推進するなど、さまざまな形で工賃向上を目指す取組みを進めています。
就労継続支援B型で高い工賃をもらう方法は?
ここまで説明したように、就労継続支援B型では利用者の支援ニーズに合った生産作業を提供しているため、大幅な工賃アップを目指すのは難しい面があります。
そんな中でもできる限り高い工賃を得たいという場合は、以下のような方法が考えられます。
- 働く日数や時間を増やす
- 工賃の高い事業所を探す
それぞれについて見てみましょう。
働く時間や日数を増やす
就労継続支援B型事業所の多くは、勤務時間が1日2〜4時間程度です。
1日4時間で週に5日働けば、週20時間となります。
時給制や日給制の事業所の場合、時間や日数を増やしていけば、その分だけ受け取れる工賃が増えます。
勤務時間や日数を増やしたい場合は、まずは事業所に相談してみましょう。
2. 工賃の高い事業所を探す
次の2つの方法で、工賃が高い事業所を探すことができます。
事業所の工賃実績を確認する
就労継続支援B型事業所は、年度ごとに工賃の目標水準を設定するとともに、前年度の工賃の実績を、利用者や都道府県知事に通知しなければなりません。
都道府県に報告された工賃の実績は、都道府県のウェブサイトの障害福祉関連のページに公表され、誰でも法人名、事業所名、月額の工賃平均額などを確認できます。
なかには、大阪府のように、主な作業内容や具体的な作業例まで確認できるケースもあります。
詳しく見てみると、大阪府の令和3年度の就労継続支援B型の月額平均工賃額は12,786円ですが、月額平均が7万円台や9万円台という事業所もわずかながらあることがわかるでしょう。
その一方で、月額平均が数千円台という事業所もあります。
作業内容を確認する
工賃の単価は、生産活動の内容により変わってきます。
厚生労働省の調査によると、平均工賃月額が比較的高い生産活動はクリーニングでした。
施設数は少ないですが、防災用具も比較的高くなっています。
このほか、弁当・配食・惣菜、パン製造などの生産活動が続きます。
工賃が高い場合、作業内容の難易度が高かったり作業時間が長かったりする可能性もあります。
それでも対応できそうな場合は、単価の高い作業を行っている事業所を探してみるのもよいでしょう。
▼生産活動の内容別平均工賃月額
生産活動の内容 | 平均工賃月額(令和3年9月) |
---|---|
農業・園芸(185施設) | 14,025円 |
パン製造(59施設) | 14,509円 |
菓子製造(116施設) | 12,641円 |
農畜産物・魚介加工品製造(34施設) | 13,989円 |
繊維・皮革製品(76施設) | 11,362円 |
防災用具(4施設) | 16,755円 |
部品・機械組立(162施設) | 13,043円 |
印刷(42施設) | 12,890円 |
リサイクル事業(109施設) | 12,677円 |
清掃・施設管理(228施設) | 13,638円 |
クリーニング(23施設) | 25,761円 |
郵便物の封入・仕分け・発送(102施設) | 12,178円 |
自家製品(食品、雑貨等)販売店舗の運営(102施設) | 12,642円 |
情報処理・IT関連(20施設) | 12,607円 |
出典:就労系障害福祉サービスにおける経営実態等調査(厚生労働省)
就労継続支援B型の平均工賃と報酬単価の関係は?
就労継続支援B型の事業所の収益には、「障害福祉サービスの報酬」と「生産活動の売り上げ」の2種類があります。
このうち障害福祉サービスの報酬を基本報酬といいます。
以前は前年度の平均工賃月額に応じた7段階の区分に従って基本報酬が支給される仕組みでしたが、2021(令和3)年の報酬改定でこの区分が見直されました。
高工賃を実現している事業所をさらに評価するため、基本報酬の区分が「1万円未満」から「4.5万円以上」の8段階となり、実績がよりきめ細かく反映されるようになりました。
▼就労継続支援B型事業所の基本報酬
平均工賃月額(令和3年4月1日〜) | 基本報酬 |
---|---|
4.5万円以上 | 702単位/日 |
3.5万円以上4.5万円未満 | 672単位/日 |
3万円以上3.5万円未満 | 657単位/日 |
2.5万円以上3万円未満 | 643単位/日 |
2万円以上2.5万円未満 | 631単位/日 |
1.5万円以上2万円未満 | 611単位/日 |
1万円以上1.5万円未満 | 1590単位/日 |
1万円未満 | 566単位/日 |
※従業員配置7.5:1,定員20人以下の場合の単位
※出典:令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容 令和3年2月4日(厚生労働省)
この改正により平均工賃月額が5,000円以上1万円未満の事業所は574単位/日から566単位/日に基本報酬が下がりました。
しかし、
- 1万円以上1.5万円未満は589単位/日から590単位/日(+1単位)
- 1.5万円以上2万円未満は589単位/日から611単位/日(+22単位)
- 2万円以上2.5万円未満は600単位/日から631単位/日(+31単位)
と、高工賃を実現するほどに基本報酬は上がります。
就労継続支援B型事業所は稼働率が売上に直結するため、利益を上げるには最低でも月1万円以上の工賃を保証することが重要です。
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参考文献・URL
- 令和3年度工賃(賃金)の実績について(厚生労働省)
- 平成14年度から令和3年度までの地域別最低賃金改定状況(厚生労働省)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業(e-GOV法令検索)
- 就労継続支援に係る報酬・基準について≪論点等≫(厚生労働省)
- 障害福祉サービス、障害児給付費等の利用状況について(厚生労働省)
- 工賃(賃金)実績の公表(大阪府)
- 就労系障害福祉サービスにおける経営実態等調査(厚生労働省)
- 令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容 令和3年2月4日(厚生労働省)
- 事業所の工賃向上計画策定に関するガイドライン(茨城県)
- 障害者の就労支援について(厚生労働省)
- 遠山真世障害者就労継続支援B型事業所における工賃向上の阻害要因と対策に関する研究—5事業所のインタビュー調査からみた現状と課題—日本社会福祉学会中国・四国ブロック. 2020,7
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執筆者
ミライクス運営事務局