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2023.10.27
2023.10.25
ユニットケアとは?基本的な理念から現状の課題までわかりやすく解説
ユニットケアとは、介護施設でもその人らしい暮らしができるように、一人ひとりの個性や生活スタイルを尊重した介護ケアを行うことです。
近年のニーズの高まりを受け、ユニットケアを取り入れる施設も増えています。
しかし、ユニットケアにはメリットだけでなくデメリットもあります。
この記事ではユニットケアに関心のある方に向け、ユニットケアの定義やメリット・デメリット、従来の施設との違い、現状と課題などについてわかりやすく解説します。
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目次
ユニットケアとはどのようなもの?
厚生労働省はユニットケアを「居宅に近い居住環境の下で、居宅における生活に近い日常の生活の中でケアを行うこと」と定義しています。
出典:「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について」(厚生労働省)
従来の施設では数名が一室で過ごし、決まった時間に食事や入浴を行う「集団ケア」が取り入れられており、効率的にケアを行える一方で個人のプライバシーや尊厳が守られないといった課題も指摘されていました。
そんな中、個人の尊厳を守る「個別ケア」を実現できる手段のひとつとして、ユニットケアが生まれたのです。
国は個別ケアが高齢者の尊厳を守ることにつながると考え、2002(平成14)年度からユニットケア型の特別養護老人ホームに対して施設整備費の補助金を出すなど、ユニットケアの普及に努めています。
そのほか、障害福祉の分野でも「障害者グループホーム(共同生活援助)」に同様の考え方が取り入れられています。
ユニットケアの3つの要素
ユニットケアを実現するには、次にあげる3つの要素が必要とされています。
1.環境(ハード)
入居者にとっての「普通の生活」を実現するには、家庭に近い環境づくりが欠かせません。ユニット型特別養護老人ホームの設備基準では、「入居者の自律的な生活を保障する居室(使い慣れた家具等を持ち込むことのできる個室)と、少人数の家庭的な雰囲気の中で生活できる共同生活室(居宅での居間に相当する部屋)が不可欠である」とされています。
2.生活のサポート(ソフト)
ユニットケアでは、一人ひとりの個性や生活リズムに合わせた支援を提供します。
職員は担当する入居者の経歴から生活習慣、趣味・嗜好までを把握し、自律的な生活を営めるように適切なサポートを行う必要があります。
3.仕組みづくり(システム)
ユニットケアを実現するには、環境(ハード)と生活のサポート(ソフト)を結びつけ、有効に機能させる仕組みづくりも大切です。
職員が数人単位で入居者を受け持つユニットケアには1人ひとりが孤立しやすくなるリスクもあるので、職員同士の連携や人材育成の方法も検討しておくとよいといわれています。
ユニットケアと従来型の違い
ユニットケアを行う施設は、従来型の施設と次のような違いがあります。
▼ユニットケアと従来型の違い
従来型 | ユニットケア型 | |
---|---|---|
部屋の構造 | 多床室 | 個室 |
ケアの方法 | 集団ケア | 個別ケア |
職員の配置 | 固定化されていない | 固定化されている(受け持ち制) |
1.部屋の構造
従来型の施設は、2〜4人が一室で過ごす「多床室」が中心です。
病院のような構造で、食堂や共有スペースは独立しています。
一方、ユニットケアを行う施設では、一人ひとりに個室が用意されているのが特徴です。
リビングスペース(共有スペース)の周りに個室が配置され、入居者は自由に行き来できます。
ケアの方法
従来型の施設では、効率性を重視した集団ケアが主流です。
施設ごとに1日のスケジュールが決まっており、入居者はそれに沿って生活します。
それに対してユニットケアを行う施設は個別ケアを重視し、できるだけこれまでの生活を継続できるように配慮しています。
そのため、起床や食事の時間を調整できる施設も多いようです。
職員の配置
従来型の施設では、ケアを行う職員が固定されておらず、毎日別の職員がケアを行うこともあります。
ユニットケアを行う施設の大半は、ケアを行う職員を固定させる「受け持ち制」を採用しています。
10人程度のユニットごとに職員が配置され、1人の看護・介護職員が受け持つ入居者数は平均1.7人です。
※出典:「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」(厚生労働省)
ユニットケアのメリット・デメリット
ユニットケアのメリット・デメリットをまとめると、以下のようになります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
入居者 | ・個別のケアが受けられる ・プライバシーを確保できる ・共有スペースで交流できる ・家族が訪問しやすい ・感染症予防に効果がある |
・少人数なのでトラブルがあると気まずい ・プライベートの時間が多く孤独を感じる人もいる ・利用料金が高額 |
職員 | ・1人1人に丁寧なケアができる ・入居者との信頼関係を築きやすい |
・1人ひとりの負担が大きい |
ユニットケアを受ける人のメリット・デメリット
ユニットケアを受ける最大のメリットは、施設に入居してもプライバシーを確保し、ある程度自由に生活できる点です。
個室のため家族が訪問しやすく、インフルエンザなどの感染症が広がりにくいという安心感もあります。
各ユニットには共有スペースが設けられ、他の入居者とのコミュニケーションも図れます。
職員との距離が近く、きめ細やかなケアを受けられるのも魅力です。
一方、デメリットは従来型に比べて月額利用料が高額なこと。
国が定める基準費用額を見ると、多床室の特別養護老人ホームの居住費は1ヶ月2.6万円ですが、ユニット型個室は6.1万円となっており、2倍以上の金額になっています。
また、少人数と生活を共にするため、入居者同士のトラブルが起こると気まずさを感じ、住み替えが必要になるケースもあるといわれます。
自由時間が多い分、孤独感を抱く人もゼロではありません。
ユニットケアを行う職員のメリット・デメリット
ユニットケアを行う職員にとっては、入居者それぞれに必要なケアを提供できる点が最大のメリットです。
受け持ち制により入居者との距離が近くなる点も、ユニットケアのよさの一つといえます。
入居者たちに日々接することで信頼関係が構築され、入居者だけでなく職員にとっても心理的な支えとなるでしょう。
逆に、ユニットケアは職員にとって大きな負担となる可能性もあります。
受け持ち制度により、職員一人ひとりが自立して動かなくてはなりません。
もしトラブルがあった場合は、職員が自分で問題を解決しなくてはならないため、判断力が問われます。
加えて、ユニットケアには複数の作業を同時に進めることが必要になる場面もあります。
身体的・精神的な負担が大きい状況は、職員の疲れやストレスの原因となるので注意が必要です。
ユニットケアはどんな人に向いている?
ここまで紹介してきたメリット・デメリットをふまえると、ユニットケアは以下の人に適していると考えられます。
入居者
- 必要に応じてケアを受けたい人
- 適度にプライバシーを保ちたい人
- 社交的な性格の人
ユニットケアを行う施設への入居が向いているのは、自分のライフスタイルやプライバシーを大事にしながら必要なケアを受けたいと考える人です。
職員と深く関わり合う介護スタイルで、他の入居者との自然な交流を促す施設構造になっているため、人付き合いが苦手な人よりも社交的な性格の人のほうが向いています。
従来型と迷った場合は、短期的に宿泊する「ショートステイ」を利用してみるとよいでしょう。
職員
- 入居者に寄り添った個別ケアを実践したい人
- 複数の業務をこなせる人
- 積極的にスキルアップできる人
ユニットケアを行う施設への入居が向いているのは、自分のライフスタイルやプライバシーを大事にしながら必要なケアを受けたいと考える人です。
職員と深く関わり合う介護スタイルで、他の入居者との自然な交流を促す施設構造になっているため、人付き合いが苦手な人よりも社交的な性格の人のほうが向いています。
従来型と迷った場合は、短期的に宿泊する「ショートステイ」を利用してみるとよいでしょう。
職員
- 入居者に寄り添った個別ケアを実践したい人
- 複数の業務をこなせる人
- 積極的にスキルアップできる人
ユニットケアを行う施設での勤務が向いているのは、入居者一人ひとりに向き合った個別ケアを行いたいと考える人です。
1人で数名の入居者を受け持つため、複数の業務にも柔軟に対応できる人にとっては、より力を発揮しやすい環境といえるでしょう。
また、ユニットケアでは定型的な対応ではなく、場面に応じた適切な対応が必要となります。
そのため、自らスキルアップしようとする姿勢を持っていることも重要です。
ユニットケアの現状と課題
厚生労働省は、2025年度までに特別養護老人ホームの入所定員の7割をユニット型にする目標を設定していますが、2017(平成29)年時点のユニット型の割合は43.6%で目標には届いていません。
その要因として、以下の2点が考えられます。
人員配置基準が厳しい
ユニット型施設では個別ケアを実現するために、従来型に比べて介護職員などの人員配置基準が手厚くなっています。
- 日中:1ユニットごとに常時1人以上の介護職員または看護職員を配置する
- 夜間・深夜:2ユニットごとに1人以上の介護職員または看護職員を配置する
- ユニットごとに常勤のユニットリーダーを配置する
しかし、実際にはユニット型を含む特別養護老人ホームの半数以上(57.7%)が職員不足であることがわかっています(※)。
※出典:「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」(厚生労働省)
人手不足の状況を受け、厚生労働省は令和3年度介護報酬改定で、個室ユニット型施設の1ユニットあたりの定員を「おおむね10人以下」から「原則としておおむね10人以下とし15人を超えない」という基準に変更しました。
加えて、入所者の処遇に支障がないことを条件に、従来型とユニット型を併設する場合の介護職員・看護職員の兼務を可能としました。
施設整備に多額の費用が必要
2020年の調査結果では、ユニット型特別養護老人ホームの平米単価は31万2000円、定員1人あたりの建設費は1489万9000円と過去最高となりました。
※出典:「2020年度(令和2年度)福祉・医療施設の建設費について」(独立行政法人福祉医療機構)
従来型からユニット型に移行するにも、大規模改修または建て替えが必要となり、多額の費用がかかります。
このように施設整備に多額の費用がかかることも、ユニットケアがなかなか普及しない理由のひとつといえるでしょう。
福祉サービスの開業を検討している方へ
福祉の分野では、介護福祉だけでなく、障害者福祉のニーズも大きくなっています。
しかし、障害者福祉はニーズは大きい一方で、ケアが行き届いていない状況です。
障害者福祉の分野では「障害者グループホーム(共同生活援助)」がユニットケアに近く、障害のある方が夜間の介護を受けながら家庭的な雰囲気のもとで共同生活を送っています。
ミライクスは障害者グループホームの開業支援サービスとして「グループホーム実践講座」を開講しています。
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参考文献・URL
- 「ユニットケアについて」(厚生労働省)
- 「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について」(厚生労働省)
- 「個室ユニット型施設の推進に関する検討会 報告書」(厚生労働省)
- 「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」(厚生労働省)
- 「ユニットケア導入のための指針(施設の整備・運営とケアのあり方)の開発・評価等に関する研究報告書」(厚生労働省)
- 「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」(厚生労働省)
- 「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について」(厚生労働省)
- 「2020年度(令和2年度)福祉・医療施設の建設費について」(独立行政法人福祉医療機構)
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執筆者
ミライクス運営事務局