事業を準備する
2023.11.23
2023.10.25
障害者グループホームの設備基準とは?開業に必要な設備・物件の決まりを解説!
障害者グループホームとは、障害のある方が世話人や生活支援員のサポートを受けながら少人数で暮らす住宅のことです。
共同生活援助とも呼ばれ、社会福祉法人やNPO法人、医療法人などが設置しています。
新たに障害者グループホームを開業するためには、さまざまな基準を遵守して準備しなければならず、設備基準もその一つとして重要です。
この記事では、障害者グループホームの開業を検討している方向けに、障害者グループホームの設備基準について、詳しく解説します。
すでに福祉サービスを開業していて事業拡大を検討している方、新規に事業立ち上げを考えている方は、ぜひチェックしてみてください。
この記事の監修者・執筆者
目次
障害者グループホームの設備基準
障害者グループホームは、利用者が安心して共同生活を送れるように、設備基準が定められています。
障害者グループホームの開業にあたっては、設備基準を満たすことが要件の一つです。
ここでは、設備基準における「立地」「設備」「物件タイプ」「定員」の4つのポイントに焦点を当てて詳しく解説していきます。
物件の立地
障害者グループホームを開業する場所に関しては、次の2点を守る必要があります。
- 入所施設や病院の敷地外にあること
- 住宅地や住宅地と同程度に地域住民や家族と交流できる場所であること
出典:「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員・設備及び運営に関する基準」第210条(e-GOV法令検索)
障害者グループホームは、家族や地域住民との交流が図れる地域にあることが要件の一つとなっています
そのため、入所施設や病院の敷地内に設けることは認められません。
なお、一人暮らしに近い形態の「サテライト型住居」を設ける場合も、本体住居(グループホーム)と密接な連携が取れるよう20分以内で移動可能な距離に設置する必要があります。
そのほか、重視するポイントによっては、場所選びの際に以下の点も考慮しておくとよいでしょう。
集客面・運営面を重視 |
・医療機関が近い ・コンビニや商業施設が近い ・公共交通機関が充実している(駅近) ※アパート、マンションタイプの物件がメイン |
---|---|
369ヶ所 | ・買い物には困らない程度の施設がある立地。 ※戸建て、アパートタイプの物件がメイン |
医療機関が近ければ、利用者の通院に便利です。
スタッフとしても、利用者の体調急変などの際に近くに頼れる医療機関があることは安心材料となります。
また、買い物がしやすい場所ならば利用者だけでなくスタッフが食料品などの買い出しをするのにも便利ですし、駅近ならばスタッフが通勤しやすいでしょう。
しかし、利便性の高い物件は、購入や賃貸費用が高くなるという運営上のデメリットがあります。
土地代や賃料を抑えることにプライオリティを置くならば、買い物に困らない程度の郊外をおすすめします。
ただし、都市計画法等により市街化調整区域内に障害者グループホームを新設するのは難しくなっているので注意してください。
物件タイプ
戸建てでもアパートやマンションでも、住居として住める場所であれば問題なく、物件タイプの指定はありません。
賃貸物件か、自己所有物件かも問われません。
▼戸建て型とアパート型の特徴
物件タイプ | メリット | デメリット |
---|---|---|
・戸建て型 ・アパート・マンション(1室)型 |
・スタッフの目が行き届きやすい ・利用者がより家庭的な雰囲気の中で生活できる |
・利用者のプライベートを確保しづらい ・スタッフの業務量が増えやすい |
ワンルーム型 |
・スタッフの業務量が軽減される ・利用者が自立して生活できる |
・スタッフの目が行き届きにくい ・障害支援区分が高い人は利用しづらい |
戸建て・アパート・マンションともに、それぞれの居室はあるものの、食堂やトイレ、風呂は共同で、常に同じ屋根の下にスタッフがいる状態のため、より障害支援区分が高い方たちをサポートするのに適しています。
近年はより自立して生活できる方の住まいとして、ワンルーム型のグループホームも増えています。
どのようなグループホームにしたいのかを考えたうえで、物件を決めるとよいでしょう。
建設費などの初期費用を削減したいなら、既存の空き家物件を利用するのも有効な方法です。
そのほか、兵庫県のように県営住宅や公社住宅などを活用したグループホームの開設支援を行っている自治体もあります。
物件の設備
障害者グループホームでは、共同生活住居ごとに1以上のユニットが必要です。
ユニットとは、居室とその近くに設けられる相互に交流を図ることができる設備から構成される生活単位です。
居室のほか、交流場所(居間・食堂)、風呂、トイレ、洗面所、台所が含まれます。
▼ユニットの必要設備
設備 | 要件 | 備考 |
---|---|---|
居室 |
・居室の定員:原則1人(夫婦など、利用上必要と認められる場合は2人利用も可能) ・居室面積:収納設備を除き7.43㎡(和室の場合は4.5畳)以上 ・廊下、居間等につながる出入口があり、他の居室と明確に区分されている |
窓が必要 |
居間 |
・居室及び居室に近接して設けられる相互に交流を図ることができる設備を設ける ・居間と居室は一ヶ所にまとめることが可能 |
利用者全員が集まれる広さであること |
食堂 | 環境衛生に配慮する。保存食の保存設備があることが望ましいとする自治体もある | |
台所、浴室、トイレ、洗面設備 |
・トイレ手洗いと洗面所の兼用は不可 ・10名を上限とする生活単位ごとに区分して配置 |
利用者の特性に応じたものであること |
居室については、廊下や居間などにつながる出入り口があり、他の居室と明確に区分されていることが条件です。
そのため、カーテンやパーテーションで区切っただけでは居室と認められません。
また、居室には採光や換気のための開口部が必要で、建築基準法により以下のような基準があります。
▼居室の採光と換気の基準
採光 | 床面積の7分の1以上の開口部(窓など)が必要。 |
---|---|
換気 | 床面積の20分の1以上の開口部(窓、換気口など)が必要。 |
上記の基準を満たしていないと、法律的に居室として見なされないため、注意が必要です。
ユニットには含まれませんが、可能であればスタッフが作業をするための部屋を一室確保できるとよいでしょう。
書類作成などは机があれば可能かもしれませんが、鍵付きのキャビネットに保管しておくべき書類や利用者から預かっている金銭、薬などがある場合もあります。
しっかりと管理するため、できれば一室確保しておきたいところです。
入居定員
障害者グループホームの定員のルールは、事業所ごと、共同生活住居ごと、ユニットごとに定められています。
▼障害者グループホームの入居定員
種別 | 入居定員 | 備考 |
---|---|---|
事業所 | 4人以上 | 1つ以上の共同生活住居が必要 |
事業所 |
・新規に設置する場合:2人以上10人以下 ・既存の建物を利用する場合:2人以上20人以下 ・都道府県知事が特に必要と認める場合:30人以下 |
1つ以上の共同生活住居が必要 |
ユニット | 2人以上10人以下 | |
サテライト住居 | 1人 | 本体住居1つにつき2ヶ所まで設置可能 ※本体住居の入居定員が4人以下の場合は1ヶ所まで |
ちなみに平均入居者数は1つの共同生活住居につき6名ほどとなっているのが現状です。
〇 共同生活住居(入居定員4人)1棟の事業所
× 共同生活住居(入居定員2人)1棟の事業所
〇 共同生活住居(入居定員2人)2棟の事業所
共同生活住居の定員は2名以上なので、1棟に2名の入居者がいればよいように思えますが、それでは事業所としての最低定員を満たせません。
同じ敷地内に共同生活住居を2棟まで構えられるので、入居者2名の共同生活住居が2棟あれば定員条件を満たせます。
障害者グループホームが守るべき建築基準法・消防法の基準は?
障害者グループホームを開業する場合は、物件が建築基準法や消防法に適合しているかを確認することが義務づけられています。
設備基準と同様に、必ずクリアしなければならないものなので、建築基準法と消防法について最低限の情報を確認してから、物件選びをするのがおすすめです。
そうでなければ、あとから膨大なリフォーム費用に悩まされないとも限りません。
各自治体によって取扱いが異なる場合がありますので、障害者グループホームを開業する自治体や厚生労働省のホームページを確認したううえで、物件を選びましょう。
建築基準法における物件の用途変更と必要書類
建物を新築する場合や既存の建物を増改築する場合には、建築確認申請を行わなくてはなりません。
また、障害者グループホームに使用する建築物の床面積が合計200㎡以上で、建設時の用途から変更となる場合は、用途変更の確認申請が必要です。
用途変更の確認申請
建物には構造や敷地、設備などについてのルールを定めた建築基準法が適用され、建築時にそれぞれの用途が決められています。
例えば「事務所」として使っていた建物を「飲食店」にするときは、用途変更しなければなりません。
事務所と飲食店とでは必要な安全対策などが異なるためです。
建物を障害者グループホームとして使う場合の用途は「寄宿舎」または「共同住宅」となります。
▼障害者グループホームの建物の用途
建物の用途 | 概要 | 建物の例 |
---|---|---|
寄宿舎 | 居室以外の設備を共有して使う建築物 |
・一戸建ての住宅 ・ファミリータイプの共同住宅(3LDK等) |
共同住宅 | 各住戸が独立して生活できるものの、玄関や廊下などの共有部分がある建築物 | ワンルームタイプの共同住宅 |
そのため、床面積200㎡を超える一戸建ての住宅を障害者グループホームとして使用したい場合は、用途変更の確認申請が必要となるのです。
ただし、既存の一戸建ての住宅を障害者グループホームとして活用する場合、一定の要件を満たせば建築基準法の寄宿舎として取り扱わない特例を設ける自治体も存在します。
用途変更の確認申請は建築士への依頼が必要となり、100〜200万円かかる場合もあるので、事業計画を進める前に自治体の建築指導課に相談するとよいでしょう。
必要書類
確認申請の有無にかかわらず、障害者グループホームの開業手続きにあたっては、建築基準法の適合状況を示す書類の提出が必要です。
- 検査済証…着工前の段階で図面が法令にのっとったものであることの証明
- 確認済証…完成した建築物が法令にのっとったものであることの証明
検査済証や確認済証を紛失した場合は、自治体の建築指導課で「建築台帳記載事項証明書」を代わりに発行してもらえます。
もし申請がされていない物件の場合は、改めて検査が必要です。
障害者グループホームの物件選びの際は、当該物件が建築確認済みであること、検査済証などの書類が揃っていることを確認しましょう。
消防法による消火設備の設置義務
障害者グループホームに設置する消火設備は、消防法上の分類によって異なります。
自力での避難が困難な障害のある方(障害者支援区分4以上の方)が入居者のおおむね8割を超える施設が「6項ロ」、それ以外は「6項ハ」という分類です。
6項ロに該当する施設のほうが備えなければならない消火設備の種類が多く、より厳重な消火対策が求められています。
障害者グループホームに設置が必要な消火用設備を以下にご紹介します。
必要な消火用設備 | 6項ロ | 6項ハ | |
---|---|---|---|
消火器 | すべて設置 | 150㎡以上 | |
自動火災報知設備 | すべて設置 | すべて設置 | |
火災通報装置 | すべて設置 (自動火災報知設備と連動) |
500㎡以上 | |
スプリンクラー設備 | すべて設置 (一部施設は275㎡以上) |
6000㎡以上 | |
屋内消火栓設備 | 基準 | 700㎡以上 | 700㎡以上 |
2倍 | 1000㎡以上 | 1400㎡以上 | |
3倍 | 1000㎡以上 | 2100㎡以上 |
アパートの一部を使用する場合は複合用途となり、16項イの基準に適合させる必要があるなど、要件は複雑です。
建物の構造や階数などによっても設置基準が変わる場合があるため、注意しましょう。
開業準備の段階で近隣の消防署へ相談・確認に行くと、間違いや漏れなく設備を用意できます。
物件は購入と賃貸どちらがいい?
障害者グループホーム用の物件を購入するか賃貸にするかは、一概にどちらかが良いとは断言できません。
決め手となるポイントの一つは、初期費用をどのぐらいかけられるか、月々の経費をどのぐらいまで許容できるかという点です。
また、事業を中長期的にどのように展開していきたいか、という点も判断のポイントとなります。
購入と賃貸のメリットとデメリットを、以下の表にまとめましたので、具体的に見ていきましょう。
▼障害者グループホームの建物の用途
メリット | デメリット | こんな人におすすめ | |
---|---|---|---|
購入 |
・資産形成ができる ・リフォームしやすい |
・初期費用がかかる ・メンテナンス費用が必要 |
事業を拡大していきたい人 |
賃貸 |
・初期投資が安く済む ・設備が整っている |
・家賃などのランニングコストがかかる ・改装のハードルが高い |
初期費用やリスクを極力抑えたい人 |
購入のメリット・デメリット
まずは、メリットから見ていきましょう。
1.法人の資産になる
障害者グループホームとしての用途を終えたとしても、建物は資産として残るため、売却や貸し出しが可能。
2.リフォーム・増築ができる
物件オーナーなので、必要なリフォームや増築をするのに大家の確認を取る必要がなく、スムーズに進められる。
続いては、デメリットについてです。
1.初期費用や管理費用(管理コスト、固定資産税など)がかかる
自己資金に余裕があるなら選択肢としてOKだが、融資を受ける前提であればリスクが大きい選択になる。
2.メンテナンス費用がかかる
賃貸であれば、家自体の修繕などは大家負担となるところ、自身で行わなくてはならないため、費用がかかる。
これらのメリット・デメリットから、十分に資金があって建物を活用しながら事業拡大していきたい方には、物件購入が適しているといえるでしょう。
賃貸のメリット・デメリット
次に、賃貸のメリットについてお伝えします。
1.初期投資が少ない
購入と比べ初期投資が安く済むので、最小限の資金とリスクで事業を始められる
2.既存の設備をそのまま使える
賃貸物件ならばエアコンや自動火災報知機が付いている場合もある。
続いて、デメリットについてです。
1.事業を続ける限り、ランニングコストがかかる
特に都心部の物件は家賃が高いため、長年営むと購入した方が安いケースもある。
2.改装のハードルが高い
自社の資産ではなく、大家の許可が必要となるため改装が難しい。
3.希望する外観・内観にしづらい
自分の理想とするイメージと違うままで運営しなければならない可能性もある。
上記のメリット・デメリットから、初期投資を抑えて開業したい方には、賃貸がおすすめです。
障害者グループホームを開業する際の費用については、こちらの記事も参考にしてみてください。
障害者グループホームの今後は?
障害者グループホームは、2008(平成20)年から2019(平成31/令和元)年の間に利用者が約2.7倍に増加し、2020(令和2)年4月には13万人を超えました。
そのほかの障害者福祉施設も社会的な需要が高い状況が続いているため、近年開業を検討する人が増えてきています。
障害者グループホームにおいてはサテライト型の需要も高く、重度障害者の受け入れ体制の強化も求められています。
そのような需要に対しての施設数は不足しているものの、次第に数は増えてきており、それと同時に施設同士の競争も徐々に激しくなってきているのが現状です。
障害者グループホームをはじめとした障害福祉施設を長く運営していくにあたって、福祉施設運営の知識やノウハウを身につけておくことは、今後大きな武器になるでしょう。
ミライクスでは「グループホーム実践講座」を開催しており、計4回の研修型コンサルティングや専門家による実践的な研修を通して、グループホームを効率的に経営していくための開業準備をサポートします。
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参考文献・URL
- 「共同生活援助(介護サービス包括型・外部サービス利用型・日中サービス支援型)に係る報酬・基準について≪論点等≫」(厚生労働省)
- 「障害者グループホームの設置・運営について」(船橋市)
- 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について(平成18年12月6日障発第1206001号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)【新旧対照表】」(船橋市)
- 「障がい者向けグループホームの主な設置基準について」(神戸市) 社会・援護局障害保健福祉部長通知)【新旧対照表】」(船橋市)
- 「共同生活援助(グループホーム)の基準 概要」(さいたま市)
- 「既存の戸建て住宅を活用する場合の『障害者グループホーム』の建築基準法上の取扱い」(愛知県)
- 「既存建築物を福祉関係施設に用途変更する場合の確認申請について」(大阪市)
- 「障害者の住まいの場の確保について(国土交通省との連携)」(厚生労働省)
- 「サテライト型住居の概要」(厚生労働省)
- 「障害者グループホームの支援制度について」(兵庫県)
- 「『障害者グループホーム』を新設等する場合は、建築基準法の手続きにご注意ください!」(新潟県)
- 「共同生活援助事業の概要及び人員、設備に関する基準等」「共同生活援助事業の概要及び人員、設備に関する基準等」
-
執筆者
ミライクス運営事務局